2024年秋季低温工学・超電導学会 セッション報告

11月25日(月)
A会場

クエンチ保護技術 1A-a01-05 座長 石山 敦士

本セッションは、1件取り消しがあり、4件の報告があった。
1A-a01 間藤昂允(北大)らは、深層学習手法の一種であるCNN(Convolutional neural network)を用いたコイル電圧予測器として、数値計算によって生成した絶縁REBCOコイルのクエンチ時の電圧を学習させることにより未来の電圧推移の予測の可能性を検討してきた。今回は、ノイズに対する頑健性を調べた結果を報告した。今後は、実験による妥当性の検証が不可欠であろう。
1A-a02 櫻井響介(東北大)らは、無絶縁REBCOコイルの励磁・減磁における発生磁場の遅れに対する対策として、電気抵抗率が温度上昇により絶縁体から金属性の特性に変化するPSCCO(ペロブスカイト型コバルト酸化物) 多結晶バルク体を塗布した時のテープ線材間のコンタクト抵抗を測定した結果を報告。質疑として、温度上昇に対する抵抗変化の追従性が重要と考えるので、過渡特性を検証する必要があるのではないか、関連して、追従性が悪いと常電導転移が生じたときに隣接する健全層への電流転流が温度上昇した部分に限られ、電流転流に伴う発熱が集中する可能性があるのではないかとの懸念が述べられた。
1A-a03 阿部格(東芝ESS)らは、高温超電導コイルの熱暴走による焼損を防止する方法として、含浸した導電性樹脂を介してターン間に電流を迂回させる保護技術を開発してきた。今回は、エポキシ樹脂、カップリング材、フィラーからなる導電性樹脂について、導電性フィラーの体積比率をパラメータとして抵抗率を測定した。結果、10-5~10-2Ωmオーダーの範囲で抵抗率を制御できた。また、抵抗率の異なる3つのコイルを試作し、遮断試験の結果からターン間抵抗を見積もったところ、3桁オーダーで制御できたと報告。
1A-a04(取り消し)
1A-a05 西将汰(神戸大)らは、LHC高輝度化アップグレード(HL-LHC)に向けた加速器用超伝導磁石のクエンチ保護回路用として、印加電圧に対して電流が増大する非線形抵抗器「バリスタ」を組み込んだ保護回路に関して報告。対象とする磁石の励磁試験(13.2kA,2.4MJ)用としてヒータと5機の並列回路構成のバリスタを用いた場合について、新たに開発したクエンチシミュレーションコードを用い、バリスタの安定性評価基準を求めるとともに、実機トレーニングデータで得られた保護回路の安定性を調査した。  


SCSCケーブル (1) 1A-p01-05 座長 東川 甲平

1P-p01:雨宮(京大)らは、SCSCケーブルに関する新たなプロジェクト(ALCA-Next)の概要について報告した。アドバイザリーに企業が名を連ね、国際共同研究も活発に行われているということである。本ケーブルの技術の延長線上で十数kAまでは実現可能とのこと、質疑応答の際に回答があった。
1P-p02:重政(京大)らは、多種多様なSCSCケーブルの交流損失測定結果に基づいたヒステリシス損失の実験則の導出について報告した。フィラメントの幅や相互作用を考慮することで、低磁界振幅領域でのヒステリシス損失までうまく記述できていた。
1P-p03:上垣(京大)らは、1本の超伝導線で構成したスパイラル導体で巻いたコイルの交流損失測定について報告した。パワーメータと電流電圧波形から求めた損失は一致しており、測定結果には信頼がおける一方、モデルでの定量記述には課題があり、質疑応答を含めて様々な考察を行っていた。
1P-p04:林(京大)らは、スパイラル導体で巻かれたコイルを対象とする数値電磁界解析モデルに関する検討について報告した。交流損失に敏感となる素線の幅を変えないようにモデル化することに注力していた。
1P-p05:曽我部(京大)らは、多層SCSCケーブルにおける動的抵抗の数値電磁界解析による評価について報告した。全損失の中の動的抵抗による損失を切り分けて考察できるようになったことにより、応用ごとに適した本ケーブルの構成を検討できるようになった。


SCSCケーブル (2) 1A-p06-11 座長 宮崎 寛史

本セッションは、SCSCケーブルの研究開発の進捗に関する連報(全11件)の内、後半の6件に関する内容である。
1A-p06:坂本(東芝ESS)「SCSCケーブルの端末処理に関して、半田の種類をパラメータとして抵抗測定を実施した。3種類の半田を試した結果In-Ag3半田が取り扱い、抵抗の観点で有望であるということであった。」
1A-p07:高山(東芝ESS)「マルチフィラメント線材をテープスターで測定するとIcが低く表示されてしまう問題に対応するため、Beanモデルをマルチフィラメントに拡張した換算方法を提案し、想定通りのIcが表示されるようになった。」
1A-p08:菅野(KEK)「SCSCケーブルの歪みとIc低下を測定し、不可逆歪みが0.5~0.64%となることを明らかにした。」
1A-p09:福井(新潟大)「電機子巻線にSCSCケーブルを使用し、界磁コイルにハルバッハ配列の永久磁石を使用した5000rpm、3MW同期機の電磁設計の結果を報告した。」
1A-p10:西川(京大)「SCSCケーブルは線材を絶縁していないため、超電導線材に劣化が発生した場合、他の線材に分流が可能となる。クエンチ解析プログラムを構築し、その結果について報告した。」
1A-p11:許(京大)「2層の層間の電流分流に関して小型の導体を試作し、その分流特性について報告した。現状では2層しか対応しておらず層数が増えた場合については今後対応していく予定ということであった。」 



11月25日(月)
B会場

金属系超電導体 1B-a01-06 座長 菱沼 良光

(1B-a01) 金木(岩手大):PbMO6S8シェブレル化合物バルク体をプラズマ焼結にて高充填化(高密度化)を図り、超伝導特性の向上を目指した研究である。熱処理温度を1100℃まで上げることで97%の充填率を可能とした。しかしながら、熱処理温度の上昇に伴ってTc特性が低下する傾向が見られ、その理由としては化学量論組成からのずれが要因であるとした。
(1B-a02) 田島(岩手大):Nb3Snバルク体を10Kで応用しようとする点で興味深いところである。Sn融液を一軸圧力にて浸透させる手法にてバルク体を形成させている。厚さ10mmのバルク体表層部ではNb3Sn相が生成しているものの、底部では残留Nbが観察され、Snの浸透が不十分であるとされた。今後は十分な浸透のためにHIP処理を検討している。
(1B-a03) 浅井(上智大):内部Sn法Nb3Sn線材の高性能化を指向して、Zn及びMg添加によるNb3Sn相の生成過程を詳細な微細組織観察にて検討した。Zn添加ではNb3Sn相形成のためのSn元素の拡散障壁にはならないとした。Zn及びMg共添加では、Mg元素がZn添加効果を抑制する方向に作用することが示された。
(1B-a04) 伴野(NIMS):内部Sn法Nb3Sn線材は、ブロンズ法線材よりも高磁場でのJc特性が良好であるものの、構成部材におけるアンバランスな硬度にて伸線加工中での断線リスクが高い。そこで、硬度バランスを調整する意味で種々のCuとZn共添加したSn合金を溶製し、それらの微細組織と硬度を調査した。Sn-50at%Cu組成では、ε(イプシロン)相が生成され、激しい脆性を示した。一方、CuとZn共添加することで、従来のSn-2at%Ti合金の硬度の2倍の硬度が得られた。
(1B-a05) 伴野(NIMS):一般的にNb3Sn相へのTi添加は、高磁場でのJc特性が向上することが知られている。一方で、Ti添加をNb、Sn、Cu合金のどの構成部材に実施するのかで特性が変化することが示唆されている。Nb芯の中心にNb-47at%Tiを配置したTi添加にてNb3Sn相へのTiの拡散が増加する傾向が見られた。また、NbにTi添加した線材にて、15T以上の磁場下での最も良いJc特性を示した。
(1B-a06) 松岡(東海大):YBCO粉末とNb-Ti合金とのハイブリッド化した新しい線材構成を提案し、伸線加工及び超伝導特性の評価を行った。作製した線材のIc-B特性にてNb-Tiにおける上部臨界磁場を越えた磁場下でもIc特性が確認された。これは、Nb-Tiの周囲に配置されたYBCO粉末の磁気遮蔽効果によるものとした。質疑では、I-V特性やYBCOの磁気遮蔽効果を中心に議論された。 


HTS 金属系線材・導体特性評価 1B-p01-03 座長 菅野 未知央

1B-p01:菱沼(核融合研)Nb3Sn線材を200 MPaでHIP処理することによりIcの引張応力特性が改善すると報告された。Icの可逆性の確認は今後実施予定とのこと。また、現状超伝導体形成後にHIP処理しているのは、長時間圧力を保持し続けるのは装置への負担が大きいからのとこであった。
1B-p02:矢﨑(千葉大)核融合用ケーブル・イン・コンジットの断面形状がインダクタンスを介して電流分布に及ぼす影響についての計算結果を示した。素線間の分流と端部の接続抵抗の分布は現状考慮されていない。計算に用いた素線軌跡の断面図で中心付近の素線密度が低いのはなぜか、という質問があった。


ピンニング・臨界電流 1B-p04-06 座長 土屋 雄司

1B-p04:松本(名大)らは、TDGLシミュレーションを用いた人工ピンニングセンターおよび酸素欠損導入による磁束ピンニング力増強の数値計算ついて報告した。2-4.8vol.%の1次元のナノロッドを導入してピン止め力を計算し、さらに0次元の酸素欠損を導入することにより低温での磁束ピンニング力の磁場依存性が再現できるとした。
1B-p05:濱本(九工大)らは、ツイストしたREBCO線材における縦磁界効果について報告した。線材をツイストした状態で外部磁場を線材と平行に印加し77 Kの臨界電流を測定したところ0.05 T程度で1%ほど上昇しピークを示した。この際に、自己磁場と外部磁場は同程度であるとした。さらに、線材へ印加された歪みを考慮してIcのツイストピッチ依存性が再現可能であるとした。
1B-p06:相楽(青学大)らは、フッ素フリーMOD法で作製したYBCOへのCl、金属元素Zr、Mgの添加効果について報告した。Mgを3mol.%以上添加するとTcおよびJcが低下した。一方、Mgを0.01-0.1mol%添加すると成膜後の平坦性が向上し、厚膜化に有利である可能性があるとした。Mg添加によりYBCO薄膜のc軸長は伸長しており、Cuサイトに元素置換している可能性があるとした。

REBCO 線材作製・加工 1B-p07-11 座長 松本 要

本セッションでは5件の発表があった.
「1B-p07:下山(青学大)」からは開発中のRE123焼結体原料から作製したフッ素フリーFF-MOD溶液に関する報告があった.燒結体原料から出発するMOD溶液は沈殿を生じにくく膜厚化に有効とのことである.一方,従来の単体金属のMOD原料を混合した場合は薄膜組織に空隙が生じると予想されるが,燒結体MOD原料はすでに合成反応が済んでいるためか薄膜組織が均質化するようである.従来法の焼成過程との比較は今後興味深い.
「1B-p08:吉原(住電)」はFF-MOD溶液およびBaHfO3ナノ粒子を用いた人工ピン入りREBCO線材を開発している.ナノ粒子のサイズ制御が課題とのことである.PLD法によるREBCO線材製造では基板が多連のPLD蒸着ゾーンを通過する複雑なプロセスからなる.
「1B-p09:木須(九大)」は,機械学習を用いることでこの複雑なプロセスと超伝導特性との関係を明らかにしようと試みており,工業的応用の観点からも発展が期待される.
「1B-p10:新井(東海大)」からはPowder-in-Tube法を用いたYBCO丸線材を開発の報告があった.YBCOにAg2O,Pt,Nb3Snを加えて線材作製を行ったところ,Nb3Sn添加試料のみが80 Kを超えるTcを示した.理由は不明とのことだが原因究明が待たれる.
最後に「1B-p11:町(産総研)」からは,アシストガスを工夫することでREBCO線材のレーザースクライビングにおいて技術的進展あったとの報告がなされた.



11月25日(月)
C会場

計測・沸騰現象 1C-a01-05 座長 濱口 真司

1件目の発表がキャンセルされたため、全部で4件の発表となった。
1C-a02:槙田(KEK) 液体水素による間接冷却MgB2超伝導コイルの冷却系において過去の試験中に発生した蒸発ガス流量のオシレーションを抑えるための装置の改造に関する報告で、原因となった蒸発ガス放出系の改良によりオシレーションが抑えられたことが報告された。
1C-a03:高畑(NIFS) 極低温機器の配管やタンク等の予冷時間短縮のため、銅表面上の樹脂コーティングに切り込み加工を加えた結果、切込みが無い場合と比較してライデンフロスト点が向上し、且つ裸面と同等の非常に高い熱伝達も得られた。さらに限界熱流束に近い状態が維持される興味深い領域も見出され、本現象の解明が期待される。
1C-a05:平山(住重) 小型冷凍機の蓄冷器の有効熱伝導度を測定できるシステムを開発し、鉛球を積層した蓄冷器の有効熱伝導度を測定した結果が報告された。結果として、低温領域においては過去の経験式が当てはまらないこと、及びヘリウムガスの熱伝導が支配的であることが示された。


磁気冷凍機 1C-p01-03 座長 吉田 茂

「1C-p01:堀江(金沢大)」 Euを含む希土類酸化物は水素液化温度領域で大きな磁気相転移を起こすのもがあり,エントロピー変化量は既存のGarnet系の数倍にもなる値を持つことが示された。質疑応答では,Eu系酸化物の加工性や冷凍機に実装する為の課題について質問があった。これに対して今回対象の物質について,熱特性は未評価であるが加工性等はよく,現状大きな問題は無いとの回答があった。今後実用化に向けて期待の出来る新材料との感触を得た。
「1C-p02:松永(岐阜高専)」 磁気冷凍機において,駆動型や静止型とは異なる磁気結合型を提案している。磁気的に強く結合した複数の超伝導磁石によって変動磁場を構成させ,励消磁エネルギーを低減させるシステムである。質疑応答では,当システムにおいても磁場切り替えの際に,相応のエネルギーは必要であり,その見積を評価することが重要であるとのコメントがあった。
「1C-p03:平野(NIFS)」 超伝導(YBCO)バルク体の種々のサイズにおける磁気遮へい効果の測定結果が報告された。同じ形状で磁気遮へい効果に差のある試験体があり,それぞれの着磁特性を評価したところ磁気遮へい効果の劣る試験体は着磁特性の不良が見られた。 そこで,磁気遮へい効果測定前にバルクの健全性を確認することの重要性が指摘された。


宇宙・超低温 1C-p04-07 座長 中納 暁洋

1C-P4:平塚(住重) 住友重機械工業と新居浜高専との共同研究で2段スターリング型パルス管冷凍機の圧縮機の共振周波数調整による消費電力低減、及び性能試験結果と設計計算プログラム結果との比較について報告があった。現状、実験値と計算値にずれが認められ、原因については調査中とのこと。
1C-P5:朱(韓国 同済大) 宇宙用希釈冷凍機に関し、微小重力環境において毛管現象を利用することによりHe3とHe4を分離、且つ熱交換機能も有する多孔質材料を適用した希釈冷凍機のコンセプトに関する報告があった。会場から微小重力下での有効性を確認するため、数値シミュレーションを実施してはどうかとのコメントがあった。
1C-P6:戸田(東大) 増強核磁性体を作業物質とする核スピン断熱消磁冷凍機の開発について、サブmK連続発生冷凍機の実現に成功したとの報告があった。今回の報告では白金抵抗温度計を用いて温度計測を行ったとのことであったが、今後、NMR磁気温度計測にトライするとのこと。
1C-P7:中川(産総研) 産総研とアルバック・クライオとの共同研究で、残留抵抗率比測定による熱交換器材料の超低温熱伝導率の評価についての報告があった。今回は残留抵抗率比測定から熱伝導率を求めるまでには至らなかったが、次回報告できるようにするとのこと。会場からの端子固定方法・解析での接触抵抗の取扱い、超電導量子コンピュータの戦略に関する質問などがあった。


低温技術 1C-p08-11 座長 高畑 一也

1C-p08:濱口(NIFS)からは、NIFSに整備された9 Tスプリットコイル内で通電試験ができる高温超伝導導体試験用温度可変インサートの紹介があった。20 Kで10 kAを定常通電できる性能を有する。電流リード常温端の温度が200 Kと低温であるがどうしてかとの質問があり、導体を冷やした戻りガスを使っているとの回答があった。
1C-p09:山口(中部大)からは、真空断熱二重管の熱侵入に影響を与える配管壁の輻射率についての報告があった。様々な表面状態の実効輻射率が測定され、MLIも低いが、SUSへの亜鉛メッキもそれに匹敵する低さであった。
1C-p10:髙田(NIFS)からは、真空断熱層にCO2を入れ、77 Kまでの冷却によってCO2を固化させ、真空層を減圧する方法について、再現実験の結果が報告された。一定の条件下では、1 Pa以下に減圧が可能である。この手法に関して、石狩プロジェクトでも実績があるとのコメントがあった。
1C-p11:池内(前川)からは、環境・安全委員会で計画がされている超電導・極低温機器の安全と信頼性のアンケートについて報告があった。22件の限定アンケートが終了し、これから会員へのアンケートを実施する。会員へのアンケート協力依頼があった。



11月25日(月)
P会場 ポスターセッションI

超電導材料探索・ハイブリッド線材 1P-p01-02 座長 菊池 章弘

大阪公立大の小泉等(1P-p01)は、キラルな結晶構造を有するTaGe2のAl置換による超伝導の発現について報告した。TaGe2のGeをAlで置換するキャリア制御により超伝導化を試みたところ、x = 0から0.1において磁化測定と電気抵抗測定では超伝導転移が観察できなかったが、x = 0.2から0.4では反磁性と零抵抗が観察されたと報告した。東海大の吉澤等(1P-p02)は、線材の中心あるMgB2コアの外側にYBCO粉末を配置した線材試作の結果について報告した。溝ロール等で断面は異常変形し、残念ながら今回はあまりうまく加工できなかった。この研究チームは、以前よりMgB2の周囲に臨界磁場の高いYBCO層を配置すると、YBCOにより外部磁場が遮蔽され、MgB2コアが感受する実質的な磁場が小さくなり、大きな臨界電流密度が得られると説明している。その効果を実証するには、今後、さらに追加の基礎研究が必要と思われる。


教育・セミナー 1P-p03-05 座長 長崎 陽

1P-p03:田上(核融合研)らは冷凍部会低温技術夏合宿で行ったパルス管冷凍機の制作・性能評価実験の結果に加えて、そこから学んだ低温技術について報告した。目標である77 Kで10 Wの冷凍能力は実現できなかったが、その原因として考えられる蓄冷剤の熱特性の評価がなされた。
1P-p04:田中(住重)らは冷凍部会低温技術夏合宿で行った電磁パルス式パルスチューブ冷凍機の製作と動作試験結果について報告した。操作するバルブ数を変化させ、最も低い到達温度を記録した組み合わせで77.5 Kにおいて14.5 Wの冷凍能力を達成した。
1P-p05:和久田(日立)らは「水素・超電導経済研究会」の活動方針について報告した。水素社会における液体水素の冷熱多段活用のための超電導装置の導入について、社会課題を起点に具体化を目指している。


交流損失評価・解析 1P-p06-10 座長 馬渡 康徳

超伝導コイルおよび線材の交流損失の評価に関して6件のポスター報告があった。
1P-p06: 佐藤(鹿児島大)は、交流磁場中の高温超伝導線材の損失をピックアップ・コイル法により測定するシステムの高感度化について報告した。外部磁界印加用マグネット内の磁場分布の対称性の乱れを、複数の補正コイルを配置する方法および磁界印加用コイルの配置を修正する方法により改善し、測定試料がないときの見かけの損失(キャンセル残り)を抑制することできることを明らかにした。
1P-p07: 大石(九州大)は、超伝導テープ線材を基板まで完全にフィラメント分割した後に電着ポリイミドで覆うことでフィラメント間を絶縁した切断・接合線材を提案し、その線材を用いたダブル・パンケーキ・コイルにおける交流損失の数値計算結果について報告した。通電電流が大きい場合は、線材が十分大きい交流磁場に晒されるため、切断・接合線材におけるフィラメント分割の効果により交流損失が低減できることを明らかにした。
1P-p08姫野(九州大)は、2枚のREBCO線材を低抵抗接合したFace-to-Face Double Stack (FFDS) 線材を積層したときの交流磁場中損失について数値計算結果について報告した。FFDS線材の損失と通常の線材の損失について比較し、積層数依存性については同様な振る舞いを示すが、磁場角度依存性については明らかな違いがあることを見出した。
1P-p09: 濱田(鹿児島大)は、パワー・エレクトロニクス機器への応用を想定して、Bi-2223線材を用いたコイルに非正弦波かつ高周波の電流を通電したときの交流損失について報告した。高調波成分により交流損失が増加する実験結果について、線材の常伝導金属部の渦電流損失だけでなく、高調波成分による超伝導体中のヒステリシス損失の増加もその原因であることを明らかにした。
1P-p10: 錦織(岡山大)は、極細化したNb3Sn線材およびNb3Al線材における交流通電電流による損失の数値計算結果について報告した。ブロンズ法で作製されたNb3Sn線材での超伝導部分はフィラメント形状であり、ジェリーロール法で作成されたNb3Al線材での超伝導部分は円筒形状である。その形状効果、通電電流、および周波数などが交流損失に及ぼす影響を明らかにした。


REBCO臨界電流特性 1P-p11-16 座長 小黒 英俊

本セッションでは6件の発表があった。
1P-p11にて福岡工大の関戸らは、REBCO薄膜線材の多芯化のため、Zrの線状パターンを作成した基板上に超伝導膜を成膜し、I-V特性を測定した。Zrパターンをまたぐように測定するとIcが低下していることから、Zrパターンによって簡便に多芯構造を作る可能性を示した。
1P-p12の福岡工大の白土らは、上記と同様にZrパターン上に成膜したYBCO膜のIcが低下していることを確認し、さらに、組織観察によりYBCOの配向が乱れていることを示した。いずれの発表もREBCO coated conductorの多芯化の新しい手法として期待されるものである。
1P-p13にて福岡工大の隠崎らは、ツイスト加工を想定したREBCO coated conductorのねじりに対する臨界電流特性を調べた。4端子法によるIc測定だけでなく補足磁場分布を測定し、Ic分布にばらつきがあることを示した。
1P-p14にて福岡工大の宇都宮らは、金属ストライプ構造を作った薄膜の補足磁場分布をMOにより評価した。測定した結果と理論予測は一致しており、さらにJc分布の評価も行えることを示した。
1P-p15にて九州大の呉らは、REBCO線材の局所不均一性の検出に機械学習を用いた手法を提案した。これにより、高い精度で局所不均一性を検出できることを示した。
1P-p16にて東北大の土屋らは、パルス電流源を用いた大電流領域における測定手法を開発した。最大で5 kAの通電を磁場中で行うと、ローレンツ力が大きいため測定に不具合が生じるが、電流通電方向を制御することでローレンツ力をキャンセルし、安定した通電を実現した。低温における高臨界電流領域の測定に期待が持てる内容であった。


超電導線材機械特性 1P-p17-20 座長 井上 良太

1P-p17 :東海大・東北大のグループから,REBCO線材のひずみおよび磁場印加角度が臨界電流に与える影響について報告された。
1P-p18 :大同大・応用科学研・Super Powerのグループから,REBCO線材の切断断面を観察することにより,REBCO層の破損原因および破損形態について報告された。
1P-p19 :大同大・応用科学研のグループから,引張時および圧縮時におけるREBCO層の破壊挙動について報告された。
1P-p20 :大同大・KEK・東北大のグループから,Nb3Sn線材への横方向圧縮応力が線材断面構造に与える影響について報告された。



11月26日(火)
A会場

無線電力伝送 2A-a01-04 座長 谷貝 剛

EVへの埋め込み型送電コイルから車体側受電コイルへの無線電力伝送に関する計4件の講演があった。
2A-a01 :薦田氏(岡山大)らにより、REBCO線材断線時を想定した送電コイルが示された。道路埋め込み型送信コイルをHTSで構成し、線材が断線した場合、交換しないでそのまま使用し続けられる機構として、ターン間にコンデンサを挿入している。断線時にターン間キャパシタでバイパスする事で、新たなLC共振回路を形成して無線送電を継続するアイディアである。意図的に断線部を作った場合に、インダクタンス変動とキャパシタ成分の追加による共振周波数の変動が、計算値と実測値で一致しており、断線しても通電可能な事が示された。
2A-a02:井上氏(岡山大)からも同様に断線によるLの低下で共振周波数の上昇、効率低下が見られるが、周波数を調整すれば継続送電できる。現在1kW級だが、目標の100kW送電コイルは直径1mになるとの見解であった。
2A-a03:岩本氏(岡山大)らは、軟磁性体としてフェライトを配置して送電に伴う人体や周辺機器への影響低減と伝送効率の改善を実験的に調査していた。フェライトは受電側銅コイル上に配置すると伝送効率が改善されるとの事である。
2A-a04 高橋氏(山梨大)は、電界共振型の伝送システムを提案し、MHzで送電していた。100cmの伝送効率が銅コイルで35%に対し、超伝導コイルでは82%である事が示された。磁界共振型と比較して長距離送電可能な理由として、周囲の金属に渦電流損が発生しないことを挙げていた。



11月26日(火)
B会場

バルク作製 (1) ・バルク応用 2B-a01-05 座長 山本 明保

2B-a01:富田(鉄道総研)らは、鉄道総研におけるバルク超電導の研究開発の近況について報告した。最近の研究として、放熱特性向上を目的としたバルク超伝導体への溶融合金吹付け被膜形成が紹介された。
2B-a02:箱石(岩手大)らは、造粒粉末を用いて作製したAg-GdBCOバルクの捕捉磁場特性について報告した。大型のバルク材料は粉末のプレス成型時に圧粉欠陥が発生するケースがあった。これに対し、造粒粉末を用いることで粒径を粗大化させ、圧粉欠陥を抑制した。脱脂中に圧粉体の破損がみられたため、TG-DTA熱分析をした結果も紹介された。
2B-a03:遠藤(青学大)らは、SDMG法REBCO溶融凝固バルクにおける粒界ミスフィット角と超伝導特性について報告した。SDMG法の1方向成長性に着目し、複合する種基板のミスフィット角を制御することで、種々のミスフィット角を有するYBCO接合バルクを得た。それらのJc―ミスフィット角依存性と捕捉磁場特性が報告された。
2B-a04:紀井(理研)らは、軟磁性材料を用いたバルク超伝導体アンジュレータの磁場増強について報告した。周期7, 12 mmの条件で磁場生成を行ったところ、軟磁性材料の飽和磁束レベルを超えた領域でも磁場増強効果が得られた。
2B-a05:横山(足利大)らは、REBCOバルク磁石のパルス着磁における印加磁場分布が捕捉磁場特性に与える影響について報告した。種々の軟鉄ヨークの形状が印加磁場、及び捕捉磁場特性に与える影響について数値解析結果も交え議論した。


薄膜・バルク作製 (3) 2B-p01-06 座長 赤坂 友幸

2B-p01:堀口(青学大)からは酸化物原料をプロピオン酸に溶解した原料溶液を用いてIBAD基板上にFF-MOD法でREBCO(RE=Y,Gd,Ho,Er)薄膜を作製した結果が報告された。
2B-p02:阿部(岩手大)からはPremix法と浸透法を組み合わせることによって作製されたMgB2バルクの捕捉磁場がPremix法で作製されたものに比べて0.3 T向上したという報告があった。
2B-p03:岩崎(青学大)からはMgB2バルクの超伝導特性を低下させる不純物Mg,MgOを除去するため,前駆体に酸を加えて加熱した結果,X線回折におけるMg,MgOピークが消え,特に磁場下でのJcが向上したことが報告された。
2B-p04:山本(東京農工大)からは2段階放電プラズマ焼結の温度を変えたときのKドープBa122のJcの変化が報告された。1段目の焼成温度は低い方がJcが向上することから,結晶組織がJcに大きく寄与していることが示唆された。
2B-p05:元木(青学大)からはSDMG法による60 mm級YBCOリングバルクの作製について報告された。磁束密度の軸方向依存性の結果がバルクの底面(seed plate側)にピークを持ち,seed plate側の超伝導特性がよいことが示唆された。
2B-p06:森田(日本製鉄)から積層リングバルクマグネットの応力集中部が端部に配置されたバルクの内側エッジ部であり,端部に配置されたバルクを厚い金属リングで補強することで,割れの原因となっている歪が抑制されることが報告された。



11月26日(火)
C会場

液体水素 2C-a01-05 座長 神谷 宏冶

「1C-a01:岡島(神戸大)」では、蒸発水素ガスのパラ-オルソ変換速度の圧力依存性について報告された。貯蔵圧力の増大が変換速度の向上につながることが実験的に示された。
「1C-a02:山下(神戸大)」では、液体水素貯槽や輸送に関する数値シミュレーションが報告された。発表では、VOF法よりもMNPの結果がより実験を再現することが報告された。MNPが乱流項を扱うことが精度向上に寄与していると報告された。
「1C-a03:武中(神戸大)」では、充填率をパラメータとした横振動時における液体水素の貯蔵・輸送について報告された。振動開始時に気液界面近傍の気相の温度が低下することや、0.25 MPaG付近で逆に温度が上昇する知見が得られた。
「1C-a04:中納(KHK)」は、液化水素貯槽の保安距離に関する報告であった。現在液体水素の保安距離は、圧縮水素と同じであるため、改めて液体水素の場合の保安距離を求めた。
「1C-a05:松永(岐阜高専)」では、液体水素の冷熱を利用してネオンを製造するというアイデアが報告された。報告によればこの方法で製造されたネオンの量は十分に国内需要を満足する。


デバイス応用 (1) 2C-p01-05 座長 日高 睦夫

2C-p01:久保(KEK)からバイアス電流下の力学インダクタンスに関する理論的考察結果が報告された。バイアス電流下の力学インダクタンスはバイアス電流に依存して超流動密度が振動することを前提に計算する必要があること、およびバイアス電流依存性は超伝導体の平均自由行程が短くなるにつれて大きくなることなどが示された。
2C-p02:山中(横国大)は単一磁束量子(SFQ)回路を用いたベイジアンネットワーク(BN)回路の発表を行った。BNとは事象を表すノードとノード間の因果関係を表すアークで構成され、子ノードには親ノードに依存した条件付確率表(CPT)が付随する。BNは予測や診断などの多くの分野で応用されているがハードウエア的な実装はまだなされていない。山中らはSFQ回路を用いたBNの新しい回路方式を提案し、従来問題であった磁気結合に起因するノード数制限や回路作製後にCPTを再編集する手法を提案し、その可能性をシミュレーションと実験により示した。
2C-p03:浅香(横国大)は確率的演算の一種であるストカスティックコンピューティング(SC)のSFQ回路による実装を行っている。今回はこれまで実現されていなかったSCの定数倍回路を考案し、実験により動作を実証した。
2C-p04:掛谷(京大)は量子計算システムへの応用を目的としてBi2212固有ジョセフソン接合テラヘルツ放射周波数変調の報告を行った。固有ジョセフソン接合により得られた860GHz付近のスペクトルに3GHzの電圧変調を重畳した結果、理論とよく一致した変調が得られることを示した。
2C-p05:有田(有明高専)は非線形な物理現象として第二種超伝導体を利用して様々な時系列データの予測を行うリザーバコンピューティングのシミュレーション結果について報告した。入力を従来のパルス値から線形補完したものに変えることによって予測精度が大幅に改善された。また、ピンの変化が精度に大きな影響を与えず、温度が低いほど予測精度が向上する結果が得られた。


デバイス応用 (2) 2C-p06-09 座長 山梨 裕希

2C-p06:倉知(岡山大)からは高温超電導体で構成されたSQUIDと検出コイルを分離した交流時価特性評価のための測定系の構築に関する報告がなされた。磁性ナノ粒子からの信号を検出するための周波数帯域の要求は十分満たすものの、感度の向上がまだ必要である。
2C-p07および2C-p08:廿日出(近大)からは連続する2件の講演において、火力発電所内の伝熱管の高温超電導SQUIDを用いた非破壊検査に関する報告があった。他のセンサを用いた場合よりも2桁高い信号雑音比が得られることが実証された。1mm以下のサイズの欠陥を十分に検出できることが示された。長時間試験の結果により、目に見える欠陥が発生する前の組成の変化などに起因する信号の検出ができることも報告され、開発したシステムが伝熱管の破断の防止に有用であることが示された。
2C-p09:武田(山梨大)からは無線電力伝送のための高温超電導体で構成されたアンテナの耐電力性向上の報告がなされた。フィルタリングアンテナを用い、アンテナを広帯域化することで、従来のアンテナに比べて8倍以上の耐電力性の向上がなされた。


11月26日(火)
P会場 ポスターセッションII

HTS バルク作製 (2) 2P-p01-03 座長 紀井 俊輝

バルク作成(2)のセッションでは3件のポスター発表が行われた。
2P-p01:芦生(岩手大)らは大気中で作成したSmBCOバルクの評価について報告した。バルク底面に敷いているZrO2球と液相BaCuOとの反応に起因する問題をバッファ層を用いることで解決する方法を示した。
2P-p02:赤坂(鉄道総研)らは、低融点金属をバルクに射出し表面に金属皮膜を生成することで放熱特性を大きく改善できることを示した。
2P-p03:矢野(鉄道総研)らは、REBCOバルクの疑似単結晶化過程で品質低下の原因になる種結晶とは異なる方位を持つ結晶の生成・成長を等温条件下の核生成・核成長理論に基づき定速冷却下の同理論を構築し、YBCOの包晶反応の示差熱分析(DTA)に適用した。疑似単結晶化過程の競合過程についてのこの成果は、高品位なバルク作成における重要な知見であると言える。

HTS コイル 2P-p04-07 座長 曽我部 友輔

2P-p04:吉藤(早大)らは、積層無絶縁REBCOコイルにおける遮蔽電流磁場を回路モデルによって計算し、遮蔽電流磁場のドリフトを抑制する方法を検討した。オーバーシュート時に電流を一定にするプラトーを設け、その長さを適切に設定することで、励磁遅れの影響を踏まえた磁場のドリフト抑制が可能である。質疑では高次成分のドリフトも同様に抑制できるのかについての議論が行われた。
2P-p05:大石(早大)らは、ピックアップコイルを用いた無絶縁REBCOパンケーキコイルにおける局所劣化の検出について、数値解析に基づいて有効性を示していた。コイル内部での劣化位置などを、ピックアップコイルの信号からどの程度推定可能なのかなどについての議論が行われた。
2P-p06:島田(早大)らは、ECRイオン源用無絶縁REBCOコイルシステムの遮蔽電流磁場解析の結果を報告した。コイルの励磁順によって発生する遮蔽電流磁界が異なる可能性が示されたが、コイル端部において線材垂直磁場が線材面に垂直になることの影響などについての指摘が質疑においてなされた。
2P-p07:片岡(九大)らは、鞍形形状を利用した非対称MRI用マグネットのコイル配置についての検討結果を報告した。従来のMRIとは異なるコイル形状によってMRIに必要となる磁場精度を達成することを試み、開放型のMRI装置の実現を目指した。磁場強度を上げた場合も同様の形状で実現可能なのかを問う質疑が行われた。

送電ケーブル 2P-p08-11 座長 塩原 敬

2P-p08(中部大 イワノフ ユーリ氏): HTSケーブルに使用するPPLP紙、Kraft紙および絶縁紙がない状態における短絡電流パルス後のHTSケーブルテープの熱緩和特性について、報告された。
2P-p09(鉄道総研 山本 春海): 超電導ケーブルの初期冷却時/昇温時における熱応力・運動に対する数値的な解析検証について、報告された。
2P-p10(鉄道総研 富田 優): 超電導き電ケーブルの実用運転開始から8ヶ月間の営業稼働検証における長期運用データについて、報告された。
2P-p11(東大 呂 高泰): 超電導ケーブルにおける3次元T-A法およびH法による損失解析結果について、Norrisの理論式との比較を含め報告された。


回転機 (1) ・磁気軸受 (1) 2P-p12-17 座長 大屋 正義

2P-p12:河野(東大)らは、車載用液体水素ポンプの電磁界解析結果について報告した。極低温の材料物性を考慮して回転機損失と重量を検討した結果、損失が2倍になり、運転可能時間が2時間半程度減少した。今後は永久磁石の電気抵抗率をより正確に見積もって再検討を行う。
2P-p13:津森(九大)らは、REBCO全超電導誘導機の巻線占積率を上げるため、二重台形電機子の検討結果について報告した。有効長が半減し、高出力密度化に有効なことを示した。今後はより多重構造の電機子を検討するとともにエアギャップの短縮について検討する。
2P-p14:柏木(九大)らは、空心かご型超電導回転子を用いた全超電導誘導モータの回転速度-トルク特性の実験結果について報告した。始動時は磁束変化が増加してフロー抵抗が増加し、同期付近では磁束変化の低下によりフロー抵抗が減少してエンドリング部の接続抵抗が支配的になる現象が確認された。
2P-p15:山切(東大)らは、電動航空機向け全超電導モータの回転子の希薄ガス冷却に関する解析検討結果を報告した。圧力を一定として熱伝導場と流体場の連成解析等を行った結果、回転速度を大きくするほど冷却が促進されることが確認され、実験結果とも一致することを確認した。
2P-p16:二村(秋田県立大)らは、バルク超電導体を用いた超電導磁気浮上において、固定子側のバルク超電導磁石に矩形補助磁石を併用した場合の安定性に関して報告した。補助磁石の幅が広いほど磁気剛性が向上することが確認された。
2P-p17:飯田(東大)らは、超電導磁気軸受に使用するバルク超電導体の捕捉磁場から超電導電流やJc-B特性を推定した結果について報告した。逆問題を解くことで求めた電流密度は端部以外では実験値と一致した。今後は結晶成長を考慮したおり詳細なJc-B特性を検討する。


冷却システム 2P-p18-20 座長 池内 正充

「2P-p18:淡路(東北大)」
宇宙機推進システムとして,太陽光パネルや機器の発熱からの輻射熱を輻射シールでシールドする研究発表であった.シールドの枚数2枚が最適との結論であったが,説明によると輻射熱シールドは,シートが数十枚積層されたものであり質量がかなり大きいものである.今後は輻射シールドの位置をさらに変えた検討を行っていくという.
「2P-p19:秋谷(筑波大)」
予稿集では温度などは書かれていなかったが,ポスターには計算結果の温度が表示されていて具体的な議論がしやすかった.計算した空気はREFPROPで用意されたair(dry)であり,水分やCO2の影響は考慮されていない.従って,実際の運転では熱交換器の性能低下などが懸念されるとの指摘があった.重要な質問はメモに取る姿勢は好ましい.
「2P-p20:矢島(明治大)」
冷却システムでは唯一の実験報告である.予稿集よりも実験が進展したようで実験時のジュール損も記述されるなど,かなり実験が進んだようである.計算では正確に決められない平網銅線の編込率など,影響するパラメーターなどについても質問があったが,丁寧に回答を行っていた.


11月27日(水)
A会場

高エネルギー加速器 3A-a01-05 座長 村上 陽之

3A-a01:菅野(KEK)らは、HL-LHCで用いられるビーム分離双極磁石について、実機磁石の製造・試験状況を報告した。実機試験の結果、受け入れ電流までの到達、昇温・再冷却後の良好なトレーニングメモリーの確認など、順調に進んでいることを示した。MBXF2コイルのクエンチ回数が多いことについて質問があり、製造上の異常はなく、原因は調査中とのこと。
3A-a02:鈴木(KEK)らは、実証機のCERNにおける冷却励磁試験の結果を報告した。KEKの通電試験によるトレーニングは消失していたが、最終的に受け入れ電流に到達、長時間通電にも成功したことを示した。
3A-a03:大内(KEK)らは、SuperKEKBのNb3Sn超伝導4極磁石の開発概要について報告した。装置の更なる高輝度化に向けコイルを衝突点に100mm近づける必要があり、空間制約によりターン数が減るため、高電流密度化が要求され、Nb3Snを使用したコイル設計を進めている。ターン数減に伴う精度への影響について質問があり、10um程度の精度が必要であり、熱処理変形も影響すると考えていると回答があった。
3A-a04:王(KEK)らは、加速器マグネットに用いるREBCO丸形ケーブルの臨界電流特性試験の報告を行った。ケーブル化後のIcは、線材Icより数%ほどわずかに減少したが、これは巻きつけによる自己磁場の影響で説明でき、線材IcからケーブルIcを推定できることを示した。多層化の影響について質問があり、今回の一層の試験では影響がなかった偏流について、多層の場合には考慮する必要があることの説明があった。


核融合 3A-p01-06 座長 王 旭東

核融合セッションはJT-60SAの関連発表が2件、REBCO線材を用いたNIマグネットの電磁力解析が1件、REBCO線材による導体開発と特性評価が3件、合計6件の発表があった。
3A-p01:村上(核融合研)と3A-p02:園田(核融合研)の発表では、実機の絶縁補強法の開発とクエンチ検出器の改良について報告された。クエンチ検出器の改良について、ローパスフィルタ回路のコンデンサ容量誤差がコイル電圧にスパイクノイズを重畳させるため、誤検出となることが問題であった。先行研究ではコンデンサ容量の微調整として可変コンデンサを追加する案があったが、今回は可変抵抗を用いた調整が提案され、今後は検証実験を通じて改良案を決定される。
3A-p03:榊原(北大)の発表では、無絶縁(NI)のREBCOコイルで構成されるD型TFマグネットを円形に並べてトロイダル磁場を形成する際に、クエンチ発生によってマグネット間の不平衡な電磁力について解析評価が報告された。特にNIのREBCOコイルは電源遮断後も内部で電流ループが形成されるため、電流減衰が遅く長時間にわたってマグネット間の電磁力バランスが崩れた状態となり、従来の絶縁マグネットより数倍も大きな力が加わることが示された。解析は各マグネットの各コイルをそれぞれ集中定数回路でモデル化して、18個のマグネットを連成している。各コイルの磁場分布を解析で考慮したかの質問に対して、各コイルのIc磁場依存性を用いたということであった。
3A-p04:成嶋(核融合研)の発表では、REBCO線材を積層して巻線後に低融点金属(Uアロイ)で含浸したWISE導体について、20Kと8Tの条件で行われた通電試験結果が報告された。通電に伴い導体に電圧スパイクが発生し、通電を繰り返すことで電圧スパイクが徐々になだらかになり、発生する電流値が低下することが示された。電圧スパイクはREBCO線材が電磁力によって動き、鎖交磁束の変化によって生じたと推定された。異なる電流値で生じた電圧スパイクから鎖交磁束を計算した結果、ほぼ同じ磁束量であり、推定される線材の動きは約65μmであった。
3A-p05:永田(鹿児島大)と3A-p06:摺木(鹿児島大)の発表では、REBCO線材を積層した導体の健全性評価手法と、ヒステリシス損失および結合損失の解析評価が報告された。


医療用加速器 3A-p07-12 座長 園田 翔梧

本セクションは「スケルトン・サイクロトロン」用無絶縁REBCO コイルシステムの開発の研究成果と開発状況をまとめたものであり,3A-p07 :石山 敦士(早大)にてその全体概要が紹介された。
3A-p08:野口 聡(北大)らは,遮蔽電流を評価するための回路シミュレーション手法を開発し,解析時間の大幅な短縮に成功した。また,想定以上の遮蔽電流がコイル内に誘導されることを報告した。
3A-p09:石山 敦士(早大)らは,1/2スケール小型実証モデルコイルシステムの励磁特性実験結果を報告し,全コイルを直列接続したことによる各コイルの端子間電圧への影響は小さく,NIコイルの層間抵抗を評価できると報告した。
3A-p10:植田 浩史らは,励磁の際にコイルに発生する応力を検討し,遮蔽電流による電磁力が支配的であり,遮蔽電流により巻線上下端で逆向きに電磁力が働くことを報告した。
3A-p11:石山 敦士(早大)らは,1/2スケール小型実証モデルコイルシステムの主円形コイルにおいて,定格運転電流を下回る電流値で常伝導転移が発生しことを報告した。今後,熱応力解析を含めて調査する予定である。
3A-p12 :山下 葵らは,サイクロトロンの加速面内で必要とされる磁場に対して,大きさの異なるセクターコイルを2個上下に重ねることで,要求を満たすことを報告した。本構成では,2つのコイルの電流密度をそれぞれ変化させる必要があるとのことであった。



11月27日(水)
B会場

電力システム・磁気軸受 (2) 3B-a01-05 座長 津田 理

3B-a01: 再生可能エネルギー電源出力を、電力系統を介さず直接EVに給電するための超電導DC/DCコンバータのヘリウム温度での運転特性に関する報告。20Kでの定格電流が600Aでインダクタンスが58mHのMgB2コイルを液体ヘリウム温度に冷やし、入力電力が15kWまでの2倍昇圧運転を行ったところ、95%を超える変換効率が得られたとのこと。
3B-a02: REBCOテープ線の積層導体に交流通電した時の熱暴走電流の評価結果に関する報告。2枚のREBCOテープ線を積層した導体に交流通電した場合の熱暴走電流を測定したところ、テープ線1本の臨界電流の2倍よりも低い電流で熱暴走することを確認し、この原因として、積層導体の電流分布、各テープ線の冷却条件、電流リードとの接続部の抵抗の不均一性、テープ線間の接触抵抗の不均一性を考えているとのこと。
3B-a03: エネルギー貯蔵機能を有する超伝導ケーブル(SMESケーブル)のkA級のモデルケーブルの通電特性の評価結果に関する報告。8本のREBCOテープ線を並列接続した33ターンのモデルケーブルを製作し通電したところ、臨界電流の低下がわずかであり、太陽光発電出力が突然ゼロになっても負荷に瞬断なく電力供給できることを確認したとのこと。
3B-a04: 非接触撹拌機に適用する高温超電導バルク磁石を冷却機で冷却した場合の復元力特性の評価結果に関する報告。Gd系バルク体をスターリング冷凍機で58Kまで冷却し、その上空に設置した永久磁石を水平方向に変位させた場合の水平抗力を測定したところ、ギャップ10mmの場合に設計基準である約10Nの水平抗力が得られたとのこと。
3B-a05: 超電導線材をリング状に加工して永久磁石と組合せた超電導磁気軸受(SMB)において、着磁方向が異なるリング型永久磁石を用いた場合の、軸方向変位に対する軸方向電磁力の解析結果の報告。軸方向変位が4mm以下では、軸方向着磁の方が径方向着磁の2倍近い電磁力が得られるものの、軸方向変位が4mmより大きくなると、径方向着磁の電磁力が軸方向着磁の場合よりも大きくなるとのこと。


磁気分離 3B-p01-02 座長 内藤 智之

「3B-p01:三島(福井工大)」
福島原子力発電所の事故により大量に発生した放射線汚染土壌の処理には減容化が不可欠であり,その手段の一つとして磁気分離による放射性物質の分離・回収が挙げられる。常磁性体を付着させた放射性物質の分離・回収には5テスラ以上の強磁場が必要とされてきたが,本講演では淘汰管を用いることで永久磁石の磁場で分離・回収が可能であることや仕切り板による流速制御によって連続処理が可能になることが示された。
「3B-p02:西嶋(福井工大)」
原子力プラントの廃止措置に際してCRUDと呼ばれる冷却系に生じた放射性金属酸化物の除去(系統除染)が重要になると想定されており,本講演では沸騰水型軽水炉(BWR)の系統除染において磁気分離による放射性イオンの分離・回収を検討したところ,その有効性が明らかになったことが報告された。


回転機 (2) 3B-p03-08 座長 福井 聡




11月27日(水)
C会場

臨界電流特性 3C-a01-05 金沢 新哲

3C-a01:ステップを有する超伝導線材の接合における有限要素法を用いた通電特性の評価
今泉 圭佑, 張 宇威, 小田部 荘司 (九工大); 赤坂 友幸, 富田 優 (鉄道総研)
 電力送電ケーブルで使用される超伝導線材は複数の接合が必要であり、接合部には段差が発生するので、有限要素法を用いて段差の違いによる通電特性の変化の有無を調べた。解析ソフトはJMAGを利用し、結果では段差の違いによる通電特性の変化が無視できる程度小さく、実用においては問題にならないと報告した。質疑では、段差の左右に超伝導線材の曲がりがあることについて、その影響を考慮しているかとの質問があり、今回は考慮していないとの回答があった。

3C-a02:マイスナー状態にある超伝導薄膜の縦磁場中臨界電流IV
毛利 誠一, 小田部 荘司 (九工大); 馬渡 康徳 (産総研)
 第二種超伝導薄膜に横磁場と縦磁場を印加した場合の臨界電流密度と、薄膜内部の磁場、およびオーダーパラメータ分布について、GL方程式に基づいた数値計算を行った。質疑では、超伝導薄膜の縦磁場の印加について、横の成分について考慮すべきではないかとの話があった。なお、計算結果が多く発表されていることは良いが、一つでも実験実証ができればさらに良いのではとのコメントもあった。

3C-a03:磁束クリープ・フローモデルを用いたRE系コート線材の縦磁界下の臨界電流特性の評価
冼 明鋭, 木内 勝 (九工大)
 市販の臨界電流が異なる3社のREBCO線材について、縦磁界下での臨界電流特性を測定、評価した。電流方向にそれぞれ平行と垂直の磁界における臨界電流の磁場依存性を報告した。質疑では、Eff/Eの比はどれくらいか、データはあるかなどの質問があり、データはまだないとの回答があった。

3C-a04:銀複合Bi2223厚膜の作製
大久保 龍一, 山口 章, 公平 龍之介, 元木 貴則, 下山 淳一 (青学大)
 Bi2223の厚膜試料の作製と実験評価について報告した。実験評価では、X線回折パターン、SEM画像、電流電圧特性などの結果を示し、作製条件について議論した。質疑では、多芯ではなく厚膜になった場合の機械強度はどのようになるかとの質問があり、それについてまだ検討・評価されていない回答があった。

3C-a05:伝導冷却下における極細Nb3SnおよびNb3Al超電導線材の臨界電流と交流通電損失特性
尾上 凜空, 錦織 敏志, 宇都宮 航生, 井上 良太, 植田 浩史, 金 錫範 (岡山大); 菊池 章宏, 飯嶋 安男 (NIMS)
 極細Nb3SnとNb3Al 超電導線材の臨界電流と交流損失の測定結果について発表された。どちらの線材も超伝導フィラメントが細いほど臨界電流が高くなる結論であった。交流損失はNb3Al 線材がNb3Sn線材より小さくなった。質疑では、フィラメントが細いほど臨界電流が高くことは、高温超伝導線材にもみられる現象であり、低温超電導線材では物理的にどのような解析をしているかとの質問があり、フィラメント径と線材断面積での専有面積などで説明するとの回答があった。


REBCO・MgB2機械・Ic特性 3C-p01-05 岡田 達典

[3C-p01: 小黒 英俊(東海大)]
 REBCOコート線材におけるIc-ひずみを不可逆領域までモデル化する試みが報告された。破壊の影響はWeibull関数で取り入れており、BSCCO線材でのアプローチとほぼ同じである。測定データからWeibullパラメータm ~ 4が報告されたが、統計性の向上などの必要性が報告された。

[3C-p02: 久米 俊輔(東北大)]
 一軸引張装置と大電流パルスの併用によるREBCO線材のIc-ひずみ評価が報告された。質疑では「可逆限界ひずみの決め方(パルス測定では電界基準を高くする必要が生じ得る)」「直流測定とパルス測定でのIc-ひずみ特性の整合性」などが問われた。

[3C-p03: 長村 光造(応用科学研)]
 一軸伸長後に線材長を保ったままテープ片端を180°回転させ、REBCO線材におけるIcの捻り・引張ひずみ依存性が報告された。テープ長が長いと捻り印加は可逆的だが、短くなるにつれIcが不可逆的に低下する。REBCOの弾塑性変形を考慮することで可逆-不可逆挙動を定性的に説明できるが、更なる検討を要する。

[3C-p04: 浦中 智貴(九大)]
 ナノインデンターによるREBCO薄膜の硬さ評価の報告が行われた。質疑では「ナノインデンター法で調べた硬さとビッカース硬さとの対応」「REBCO膜単体での評価の可否(良質なstand alone膜が無いので不可能)」などが問われた。

[3C-p05: 田中 秀樹(日立)]
 MgB2コイルのR&W製造の確立を指向し、MgB2芯線と補強材との熱膨張差を利用した圧縮ひずみ印加についての検証が報告された。SUS無し材では圧縮ひずみの予測値の絶対値とIcの不可逆ひずみが凡そ一致していたが、SUSやSUS + Monelを付与した際には両者が0.3%もずれると報告された。考察・質疑では、MgB2の焼成過程で補強材の機械特性が変化している可能性などが議論された。


超電導・低抵抗接合 3C-p06-08 伊藤 悟

3C-p06 武田(NIMS):REBCO iGS接合の抵抗の電流負荷率依存性を、10-8 Vで評価された臨界電流およびn値を用いて見積もる手法が報告された。永久電流マグネットに実装されるiGS接合の抵抗評価については全数検査が必要ではあるが、本手法により一部の測定データから許容抵抗に抑えられる電流負荷率を推定することが可能である。今後は磁場角度をパラメータとした際のデータ取得および本手法の検証が期待される。
3C-p07 世良(九大):REBCO線材の半田フリー音波接合の接合抵抗率を説明する数理解析モデルの導出についての報告がされた。接合抵抗率を音波接合のパワーに依存する結合エネルギーの関数として表すと、実験結果を定量的に説明できることが示された。結合エネルギーはパワーに対してべき乗で減少するが、これは接合時の温度上昇が原因であると推測され、今後は接合時の温度評価を行っての検証が期待される。
3C-p08 馬渡(産総研):常伝導金属により接合した超伝導テープ線材の接合抵抗の接合長さ依存性を、超伝導層の非線形抵抗をべき乗則でモデル化して解析した電流分布に基づき、評価した結果が報告された。接合長さが長い場合、超伝導層内の電流が接合部端部に集中し、接合抵抗が接合長さに反比例せずに一定となることが示された。質疑応答では、このような電流分布が交流の場合に顕著に表れる可能性があることなどが議論された。